【京都府】空白の2時間がくれた奇跡。海軍ゆかりの赤レンガと、名もなきヒーロー

舞鶴赤れんが風景

福知山での夜は、心地よい熱気に包まれていた。 出張で一泊した昨晩、駅前で開催されていたイベントの余韻をほんのりと引きずりながら、私は朝7時の福知山駅に立っていた。

本日の最終目的地は、金沢。 スマホの乗り換えアプリを叩きながら、私は思案した。京都経由か、小浜経由か。行き当たりばったりの旅が好きな私は、「なんとなくだけど、小浜経由ルートにしよう」と、気まぐれな決断を下した。

アプリが弾き出したルートは「福知山→東舞鶴→敦賀→金沢」。 順調にいけば、正午すぎには金沢に到着し、少し仕事ができるはずだった。……そう、順調にいけば、の話である。

目次

第1章:魔の「5分乗り換え」と、絶望のタイムテーブル

電車に揺られ、東舞鶴駅に到着した。 アプリの指示によれば、わずか5分後に出発するJR小浜線・敦賀行に乗り換えなければならない。しかし、私は少し疲れていた。乗り換えのホームもよくわからないし、何よりちょっと一服したかったのだ。

「まあ、次の電車でいいか」

その軽い判断が、この後の運命を大きく変えることになるとは知る由もなかった。 一息ついて、のんびりと次の敦賀行きの時刻を調べる。画面に表示された数字を見て、私は自分の目を疑った。

――次の電車、2時間後。

あまりの衝撃に頭が真っ白になり、すがるような思いで駅員さんに確認したが、無情にも結果は同じだった。「京都に戻る」という選択肢も提示されたが、来た道を戻るなど電車移動のロマンに反する。私はここで2時間を潰す覚悟を決めた。

「ちょっと、駅まわりを散策して時間つぶします」

駅員さんにそう強がりを言って外に出たものの、夏の凶暴な日差しが容赦なく照りつける駅前には、見渡す限り「何もない」。遠くにマクドナルドの看板が蜃気楼のように揺れていたが、この猛暑の中、そこまで歩く気力は微塵も湧かなかった。駅構内にも、ゆっくり腰を落ち着けられる場所はない。

途方に暮れていた私の耳に、ふと天啓のような情報が飛び込んできた。 「舞鶴には、赤レンガがあるよ」

行くしかない。しかし、場所も交通の便も、何一つわからないまま、私はとりあえずバス停へと向かった。

第2章:灼熱のバス停と、無口なジェントルマン

照りつける太陽の下、バス停にはひとりの男性がぽつんと立っていた。 背に腹は代えられない。私は思い切って彼に声をかけ、赤レンガへの行き方、乗るべきバス、降りる停留所を尋ねた。

彼は感情を交えない、事務的な口調で的確にすべてを教えてくれた。 「市役所前で降りるといいですよ」 その冷たいトーンが、かえってこの暑さの中では心地よかった。

10分後、やってきたバスに乗り込む。彼もまた、同じバスに乗り込んだ。 車窓から見知らぬ街の景色を眺めているうち、私はすっかり気を抜いていた。車内アナウンスが「次は、市役所前」と告げたにもかかわらず、ぼんやりしていた私は「降りますボタン」を押すタイミングを忘れていた。

「あ」と思った瞬間、車内にピンポンと電子音が響く。誰かが押したのだ。

すると、別の座席に座っていた先ほどの男性が、すっと私に近づいてきて言った。 「次に降りたらいいですよ」

市役所前でバスを降りたのは、私一人だった。

ハッとした。ボタンを押したのは、彼だった。押しそびれた私のために、わざわざボタンを押してくれたのだ。

閉まりゆくドアの向こう側、車内の彼に向かって私は深く頭を下げた。しかし彼は、こちらを一瞥することもなく、ただ静かに前を見据えていた。

……かっこいい。 心の中でスタンディングオベーションを送りながら、私は赤レンガの待つ街へと足を踏み出した。

第3章:駆け足の赤レンガと、軍艦カレーの誘惑

目の前には、圧倒的な存在感を放つ赤レンガの建造物群が広がっていた。 じっくりと時間をかけて観光したい衝動に駆られたが、腕時計の針は無情だ。乗り遅れれば、次はさらに数時間後。駅に戻る時間を逆算し、心に「余裕を持った行動」を強く誓う。

棟の中に入ると、係員さんが「2階へも行けますよ~」と満面の笑みで声をかけてくれた。その好意を無下にはできず、足早に2階へ上がり、船に関する重厚な展示を「ぱぱっ」と目に焼き付ける。

続いて、お土産処がある棟へ。 中に入った瞬間、天国かと思った。冷房が、とてつもなく効いている! 洋館のクラシカルな雰囲気を残した立派な休憩スペースもあり、生き返るような心地がした。「これだけでも、ここに来た価値があった」と心底思えた。

お土産処には、舞鶴ならではの「軍艦カレー」がズラリと並んでいる。 種類が豊富で目移りしたが、厳選して購入。気づけば、私の鞄はカレーでパンパンに膨れ上がっていた。

「赤レンガだけじゃない、自衛隊の船も見なきゃ!」

涼しいオアシスを飛び出し、湾の方へと小走りになる。青い海を背景に、3隻の自衛隊の護衛艦が停泊しているのが見えた。その威容に息を呑む。 赤レンガのポスターには「遊覧船で自衛隊の船に接近できる」とあり、スタッフさんからは「丘の上からの湾の景色が絶景ですよ」と教えてもらった。さらに、夏限定の「赤レンガお化け屋敷」まで開催中だという。

どれもこれも魅力的すぎる。しかし、私の答えは一つしかなかった。 「今回は、パス!」

第4章:のどかな小浜線、そして夕暮れの金沢

迫り来る列車の発車時刻。 私は急いで市役所前のバス停へ向かった。バス停は二つあり、東舞鶴駅へ戻るための乗り場は自転車置き場のそばにあった。若干汗だくになりながら、なんとか帰りのバスに滑り込む。

そしてついに、敦賀行きの小浜線に無事乗車。 車窓を流れるのどかな夏の風景を眺めながら、波乱万丈だったこの数時間を噛み締めた。

やがて列車は、敦賀駅に到着した。 ここまで来れば、金沢まではどうにでもなる。深い安堵の深呼吸をして、敦賀駅の周辺を少しだけ散策し、最後の乗り換えへと向かった。

結局、当初は「正午すぎ」に到着するはずだった金沢駅に降り立ったのは、すっかり日が傾いた夕方だった。 午後から少しでも仕事をしようという目論見は、日本海に沈む夕日とともに綺麗に消え去った。

「まあ、いいか」

私は金沢駅で冷えたビールを煽り、この長く、そして濃密だった一日を締めくくった。

赤レンガ倉庫群も、自衛隊の船も、いつか必ずゆっくり観光しに来よう。 しかし、あの時「5分の乗り換え」をサボっていなければ、この美しい景色を見ることも、あの無口でクールな男性に出会うこともなかったのだ。

行き当たりばったりの電車タイムスケジュールがくれた、極上の寄り道。 パンパンに膨れた鞄の重みが、なんだかとても心地よかった。

メリー

東郷さんの海軍カレー。おいしかった。辛くなくてちびっこも美味しくいただけるよ。

LOCATION

住所福井県敦賀市金ケ崎町4−1
開館時間9時30分~17時00分
休館日水曜日
舞鶴赤れんが風景

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