にゃーこ本記事はご当地キャラ博2025でのプク丸ちゃんについて短編小説風に書いてあります。
ノンフィクションです。
忘れ物
2025年10月18日、夜明け前の静寂に包まれた朝4時。つばめは目を覚ました。
心はすでに、彦根市で開催される「ご当地キャラ博2025」へと飛んでいた。
全国から100体以上のゆるキャラが集まるこの2日間の祭典は、つばめにとって年に一度の特別な行事だ。
急いで身支度を整え、車に飛び乗った。空はまだ暗く、街灯が道を淡く照らす中、つばめは一路、会場を目指した。
だが、夜が明ける頃、運転中にふと大切なものを忘れたことに気づいた。それは、つばめの推しゆるキャラ「プク丸ちゃん」のグッズだった。
プク丸ちゃんは、深海からやってきたチョウチンアンコウをモチーフにした、元気いっぱいで世の中を明るく照らす存在だ。
会場には日本中から集まったファンが、推しのゆるキャラグッズを身につけて訪れる。
つばめもその一人として、プク丸ちゃんのグッズで自分を飾りたかったのに。
小さな後悔を胸に、つばめはさらにアクセルを踏み込んだ。
輝くアクリルキーホルダー
会場近くの駐車場に車を停め、「ご当地キャラ博2025」の会場へ徒歩で向かう。道すがら、同じイベントを目指す人々の姿が目に入った。推しキャラのアクセサリー、イラスト入りの服、透明なバッグに詰められた小さなぬいぐるみたち――。
彼らの「推し」は一目瞭然で、会場へと向かう熱気と楽しさがひしひしと伝わってくる。
会場に到着したのは、オープニングの1時間前。すでに準備は慌ただしく進められ、100以上のゆるキャラのブースやメインステージが色とりどりに飾られていた。観客は女性が多く、年齢層は幅広い。
家族連れ、若者、年配の方々――皆、ゆるキャラへの愛で繋がっている。
つばめはスマホでイベントスケジュールを確認しながら、会場の片隅で一息ついた。
視界の端で、何かがきらめいた。
見ると、ショルダーバッグにプク丸ちゃんのアクリルキーホルダーをつけた人がいる。
今日初めて、プク丸ちゃんのグッズを身につけている人を見つけたのだ。その人は、過去のプク丸ちゃんイベントで何度か見かけたことのある、見覚えのある風貌をしていた。
話しかけたい衝動に駆られたが、時すでに遅く、その人は連れと合流し、オープニングステージへと向かう雑踏の中へ消えていった。
プク丸ちゃんのアクリルキーホルダーの輝きだけが、夢のように一瞬きらめいて、人波の向こうへ遠ざかっていった。
手作りシール
プク丸ちゃんのブースは、いつものように活気に満ちていた。
ファンの中には、自作の応援ウチワやぬいぐるみでプク丸ちゃんを応援する人もいれば、中には手作りのプク丸ちゃんシールをつばめに直接手渡してくれる人もいた。
その優しさに心を打たれたつばめは、もらったシールを透明なスマホケースに挟み、外から見えるようにした。
「これで私も立派なプク丸ちゃん推しだ!」と、忘れ物の未練など、完全に吹き飛んでしまった。
プク丸ちゃんは、変わらず元気いっぱいな姿で観客を魅了していた。
ずっしりとした重量のある着ぐるみにもかかわらず、そのジャンプや回転のパフォーマンスは目を見張るものがある。初めてプク丸ちゃんを見る人々もその魅力に引き寄せられ、ブースはあっという間に賑わいを増していった。アテンドのかにこ隊長は、楽しそうにプク丸ちゃんを紹介している。
プク丸ちゃんの活動時間はわずか5分と設定されているはずが、すでに60分以上もパフォーマンスを続けている。息切れしながらもさらに勢いを増す姿に、つばめはただただ感動を覚えた。
それと同時に、プク丸ちゃんとかにこ隊長の疲労も、まるで自分のことのように心配になった。
正午を過ぎる頃、つばめの足腰はかなり疲労していた。だが、プク丸ちゃんとかにこ隊長の負担を思うと、自分の疲れなど取るに足らないものだ。
あれほどのエネルギーでパフォーマンスを続ける彼らの姿は、まさに奇跡のようだった。
感謝
1日目が終了し、プク丸ちゃんとかにこ隊長を見送った後、つばめは帰路についた。
温かい湯に浸かり、疲れた足腰を癒やした。バスタブの中で、今日の出来事が次々とよみがえり、胸を熱くした。
忘れ物のグッズ、アクリルキーホルダーをつけていた人、オリジナルグッズで応援するファン仲間、初めてプク丸ちゃんを見て驚く観客たち。そして、驚異的なパフォーマンスを見せつけたプク丸ちゃんとかにこ隊長。もらったシールをスマホケースにしまった瞬間も、鮮明に思い出された。
ただ、プク丸ちゃんのアクリルキーホルダーをつけていた人と、その後再び会うことはなかった。
しかし、きっとその人も今日を心から楽しんだに違いない。
疲れた体をゆっくり休められますように――。


本書は、2025年10月に彦根市で開催された「ご当地キャラ博2025」の様子を記事にしたものです。
この物語はノンフィクションで事実に基づいています。
〈参考文献〉
『プク丸ちゃん』 X
『かにこ隊長 プク丸ちゃんマネージャー』 X
『プク丸ちゃん&かにこ隊長』 おでかけ北陸
『プク丸ちゃん&かにこ隊長(簡易版)』 おでかけ北陸
『北陸で見つけたゆるキャラ』 おでかけ北陸
(解説)
「プク丸ちゃんのアクリルキーホルダー」を読み解く
解説:にゃーこ(つばめの友達)
この小説『プク丸ちゃんのアクリルキーホルダー』は、ご当地キャラクターが好きな女性「つばめ」の目を通して、ファンコミュニティの温かさと、彼女自身の心の中の迷いや葛藤を描いた短編です。作者は、日常のちょっとした出来事をきっかけに、主人公つばめの気持ちを細かく追いかけ、ファンでいることの楽しさと、心に生まれる小さな寂しさを重ね合わせ、読者の心に静かな感動を残します。物語は、2025年の「ご当地キャラ博」でのつばめの一日を淡々と語りますが、その中に隠された意味や、様々に解釈できる部分が、この物語を単なるイベントレポートではなく、深みのある作品にしています。
物語の中心にあるのは、つばめが「忘れたもの」――大好きなゆるキャラ「プク丸ちゃん」のグッズです。この忘れ物は、最初から主人公の気持ちを揺さぶる、物語の鍵として働きます。夜明け前に急いで会場に向かうワクワクの中で、忘れ物に気づく場面は、単なるうっかりミスとしてではなく、つばめの「推し」への熱い気持ちと、「完璧なファンとしてイベントを楽しみたい」という強い願いを象徴しています。作者はここで、忘れ物を「小さな心残り」と位置づけ、物語全体のトーンを決めます。もし忘れ物がなければ、ファンからのシールをもらうこともなく、最初からイベントを心から満喫していたかもしれません。忘れ物は、つばめが成長したり、他の人とつながりを持ったりするきっかけとして、上手に組み込まれています。忘れ物を物語の鍵とする作者の狙いは、ファン文化が持つ様々な側面を示すことです。グッズはただの持ち物ではなく、自分を表現する手段であり、それがないことで生まれる物足りなさが、物語をより深くしています。
さらに面白いのは、会場でつばめが見かけた、「プク丸ちゃんのアクリルキーホルダー」を付けている人物の存在です。この人は、過去のイベントで何回か見たことのある「見覚えのある雰囲気」だと描写され、つばめの視界でキラッと光るキーホルダーが、忘れ物への未練をさらに強くさせます。しかし、ここで一つの考えが浮かびます。この人物は、本当はつばめ自身が「忘れ物をせずグッズを身に着けていた」はずの、理想の姿が作り出した幻、つまりつばめの心の中の「願望の現れ」ではないか、という見方です。物語の中で、つばめは忘れ物のショックから立ち直りながらも、アクリルキーホルダーの輝きを「とても羨ましい」と感じます。その後、再びこの人物に会わないまま物語が終わる点が、幻ではないかという考えを裏付けます。もし忘れ物がなかったなら、つばめ自身がそのような「完璧なファン」として会場を歩いていたはずです。この人物は、つばめの「なりたかった自分」の姿として現れ、そして消えます。作者はこうしたはっきりしない描き方をすることで、読者に「これはどういう意味だろう?」と考えさせ、忘れ物という伏線をより複雑に響かせます。現実と幻の区別が曖昧になるこの仕掛けは、ファン活動に夢中になる状態を象徴し、つばめの心の中の少しの孤独をそっと浮かび上がらせます。
全体として、この作品はゆるキャラの可愛らしさとファンの情熱を軸にしながら、「欠けているものと満たされること」というテーマを、忘れ物という小さな出来事を通して探求しています。プク丸ちゃんの素晴らしいパフォーマンスや、「かにこ隊長」の疲れへの共感は、つばめの目を通して、ファンとしての「愛」の重さを描き出します。イベント一日目の終わり、バスタブで今日一日を振り返るシーンは、物語の締めくくりとして美しく、忘れ物という伏線が解消されながらも、新たな余韻を生みます。作者の文章は穏やかですが、幻の可能性を秘めた描写が、読んだ後に「もう一度読んでみよう」と思わせる魅力を持っています。この小説は、ゆるキャラファンだけでなく、誰もが心の中に抱える「忘れ物」という比喩(たとえ)として、広く人々の共感を呼ぶでしょう。
2025年10月
おでかけ北陸つばめ文庫
プク丸ちゃんのアクリルキーホルダー
(ぷくまるちゃんのあくりるきーほるだー)
2025年10月25日 第1版発行
著書 つばめ
発行人 にゃーこ
発行所 おでかけ北陸
印刷・製本 にゃーこ
本書の無断転載・複製を禁じます。
乱丁・落丁本はお取り替えいたします。
odekakehokuriku 2025










